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神戸リカバリー法律事務所

「学問をなめちゃあいけない」

 

 在籍しているときにはわからないが、卒業した後で振り返ると、とんでもなく恵まれた環境に身を置いていたことに気づかされることがある。

 僕の母校中央大学もその1つだ。

 当時、中央大学には、憲法の橋本公亘、商法の木内宜彦、刑事訴訟法の渥美東洋、犯罪学・刑事政策の藤本哲也など各界のスーパースターがキラ星のごとく並んでいた。

 僕の刑法ゼミの恩師、下村康正先生もその中の1人だ。

 先生は落語の大ファンで、上野の鈴本演芸場や新宿末廣亭といった寄席に足繁く通われ、その佇まい(たたずまい)は落語の大師匠そのもので、講義は独特のリズム感をもって進行する大変楽しいものだった。

 その教授陣の中において、僕らに強烈な印象を与えたのが渥美先生だった。

 先生は言うまでもない刑事訴訟法の大家(たいか)だが、司法試験に当然のごとく1回で合格する。

 後に東大教授となられる「天才」藤木英雄先生に次ぐ高得点での合格だったという。

 司法試験に何度も落ち続け、泣き泣き合格するというどこかの誰かとはモノが違うのだ(あたり前か)。

 先生の講義は極めて難解であったが(試験に合格した後もその一端すらわからない)、当時東大出身の先生方が提唱された学説を一刀両断に切り捨てるさまは見ていて痛快だった(東大関係者の方ごめんなさい)。

 先生の講義は厳しく、講義を抜け出した学生を、当時中央大学が存在した神田駿河台から水道橋まで追いかけて連れ戻したという伝説がまことしやかに囁かれていた(ただ、何かの雑誌で、「そのような噂があるのは承知しているが、そのような熱意のない学生に私がそのような行動をとることはない。」と先生自身が語っておられたのを見た記憶がある)。

 単位認定にも厳しく、就職が決まったにもかかわらず、渥美先生の講義の単位だけが取れず、泣きついてきた学生を、「学問をなめちゃあいけない。」と言って一蹴したという。

 そんな渥美先生は、駄目な後輩の僕らを、「中央大学法学部法律学科は『腐っても鯛』の法学部法律学科なんだ。」と、喜んでいいのか、悲しんだほうがいいのか、ほめられているのか、けなされているのか、わからない言葉で励ましてくれたものだった。

 その渥美先生がお亡くなりになって6年以上が経過しようとしている。

 あれほどお元気で自信に満ち溢れた渥美先生がお亡くなりになるなんて。

 もし、中央大学が世間の皆様から「法科の中央」と呼んでいただくことがあるとすれば、それは単に司法試験の合格実績によるものではなく、このような素晴らしい先輩方から後輩へと脈々と受け継がれた伝統の力によるのだと考えている。

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